僕は、自分の行くべきオダギリジョーを探している。My Life Card
「プライド」と呼ばれる群れのトップに君臨する雄ライオンのその美しさは圧倒的で、目の前でほかの動物がうろつくのに対しても余裕の無関心で優雅に横たわるその姿は、自らの絶対的な強さを自覚し、そしてそれに裏付けられた不動の自信にきらめいているという。
西川美和著「映画にまつわるXについて(P.219 オダギリジョーのこと)」より
仕事でケニアを訪れた著者の兄によれば、野生のライオンは、
日本の動物園で見る敗北感と疲弊に満ちた姿とは似ても似つかないのだという。
私はその圧倒的な美しさを誇るライオンを想像した。
そして、その想像の瞬時に、ヘミングウェイのキリマンジャロの雪にでてくる豹に脳内の映像が切り替わった。
キリマンジャロの雪を読めということか?
このような突然の<頭蓋に差し込むような映像>はメッセージ性があるので、すぐに本棚に向かった。
雪におおわれたキリマンジャロの西側の頂上の近くに、
ひからびて凍てついた豹の死体が横たわっている。
こんな高いところまで何を求めてやってきたのか誰も説明したものはない。
と本には書かれてある。
豹の立場になればこうだ。
この豹は、ここに行かざるを得なかったのだ。
頂上からの自分一人のためだけに用意された景色をこの目で確かめるために。
一歩一歩、吹雪に煽られながら、満身創痍で踏みしめる豹の映像が目にうかぶ。
野生の、自分すら調教できない、そう、行くしかないという、孤高の、圧倒的な美しさのあるイメージだ。
それに重なって、結婚前の何をやってもダメだった時代の自分を思い出した。
自分に合わないことを目を吊り上げてやっていたあの頃。
生活のために、一人で生きていくために、ひたむきにがんばっていた。
私はそんな独身時代の全てを否定して結婚した。
結婚して、今まで生きていた世界から一歩でてみると、
独身時代の自分の”未熟さ”が嫌というほど目につく。
それは許しがたいほどで、思いだすだけで疲れるようになった。
あれはあれで輝いていた。
必要なプロセスだった。
そう頭で統合しようとしても潜在意識は許しておらず、
その時代をなかなか良い思い出にできていなかったのだ。
それが、機が熟したのか、ポンとできた!
西川美和がオダギリジョーについて書いた文章を眺めた。
偶然の、その選択のおかげで。
傷ついて、へとへとの状態だとしても、
あなたは、あなたの山をちゃんと登れている。
本当にできそこないだったけれど、
一人で自分の足で立って生きていた。
自分で稼いだお金でビールを飲んでいた。
あの時代から遠ざかった今だからこそ、
粗削りの中に存在する「美しさ」に気づけるんじゃないの?
キリマンジャロの雪は短編なのですぐに読み終わった。
そして豹のように生きていた自分をやっとすることができた。
ほんとうに一瞬の出来事で、統合には最善のタイミングが必要で、
急いではいけないということが身に沁みる出来事だった。
話は少しそれるけど、
いまの夫と結婚したくて実家に連れていき、和やかな食卓を囲んでいるとき、
彼がふいにこんなことを母に尋ねたことがあった。
「お母さまから見た〇子さんは一言でいうとどのようなお嬢様ですか?」
すると母は間髪入れずに「野生です」と答えたのだ。
彼は「はあ?」という顔をして、私は心の中で「やめろおぉぉぉぉ」と叫んだ。
母は私の顔色が変わったのを見て「ウソいってもしょうがないでしょ!」とつけくわえた。
野生。
当時は結婚を壊そうとしているのかと疑ったけど、
誉め言葉だったのだなあと今わかる。
そう考えれば、最近批判されたスピードスケートの小平選手への”獣発言”も、
インタビュアーの感性がとらえた「野生のきらめき」のせいかもしれない。
「プライド」に君臨する雄ライオンのような、
<自らの絶対的な強さを自覚し、それに裏付けられた不動の自信>が、
小平選手の全ての映像にみなぎっていたから。
ひたむきに走りぬいた道のりを、愛せていますか?
・基礎編:2018年3月11日(日)13:00-17:00
・上級編:2018年3月18日(日)13:00-17:00
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