手と手と君の名前で僕を呼んで
第90回アカデミー賞ノミネート最終予想 脚本賞・脚色賞・衣装デザイン賞
■脚本賞
【予想】
ゲット・アウト
レディ・バード
スリー・ビルボード
シェイプ・オブ・ウォーター
ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ
作品賞の頂点に立つためにはこの部門もしっかり押さえておきたい。賞レース結果を見る限り、『ゲット・アウト』『レディ・バード』『スリー・ビルボード』の候補落ちはまずないだろう。『ゲット・アウト』は予想以上の健闘により脚本賞レースを快走し、その後を『レディ・バード』と『スリー・ビルボード』がほぼ同等の強さで追うレース展開だった。と言っておきながら、『ゲット・アウト』は若干の不安を抱えているのも確か。賞レース結果を見る限り落選するとは思えないのだが、そのジャンルゆえに会員が投票を躊躇うのも事実だろう。近年は以前より保守的でないにしても、本当に若干の不安要素があるということを断っておきたい。
残りは2枠となる。作品のパワーを考えれば『シェイプ・オブ・ウォーター』も候補までは安泰だろう。強いて不安要素を挙げるなら、脚本を手がけるギレルモ・デル・トロが監督賞のフロントランナーゆえ、そちらに票が流れてしまう危険があることか。これで残りは1枠。『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』『I,Tonya』『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』の戦いとなりそうだ。普通に考えれば、『ビッグ・シック』が来る。ただ『I,Tonya』が組合賞での健闘により追い上げを見せていて、この部門でも最後の1枠に滑り込む可能性が非常に大きい。『ビッグ・シック』が来ると見るのがいちばん安全な予想ではあるのだが、『I,Tonya』が来ても何らおかしくはない。ちなみに『ペンタゴン・ペーパーズ』のBUZZは急下降しており、2作品との差は大きい。
『ファントム・スレッド』『The Florida Project』『ダンケルク』らも一応逆転を目を残しているか。『The Florida Project』はBUZZが急下降していて作品賞候補すら危うい窮地に立っているし、『ダンケルク』は作品の性質上この部門では認められにくいだろう。それよりも『ファントム・スレッド』が来る可能性の方が断然高い。重要批評家賞であるニューヨークとナショナル・ボード・オブ・レビュー賞を制しているのも心強いではないか。脚本を手がけたポール・トーマス・アンダーソンは監督賞で候補に挙がることが容易ではないだろうし、作品賞候補も難しいだろう。となると支持派がこぞってこの部門に票を入れることが考えられる。サプライズがあるとしたら、『ファントム・スレッド』だ。
■脚色賞
【予想】
The Disaster Artist
マッドバウンド 哀しき友情
モリーズ・ゲーム
LOGAN ローガン
今年の脚色賞は例年になくウィークイヤーである。そのため、賞レースを引っ張った作品もかなり限られている。そのうち、『君の名前で僕を呼んで』『The Disaster Artist』『モリーズ・ゲーム』『マッドバウンド 哀しき友情』の候補は確実。脚色賞レースはこの4作品を中心に展開していたようなもので、ほとんどの批評家賞で揃って候補入りしている。打ち落とされる可能性あるなら、どの作品だろうか。考えるだけ野暮である。この4強を打ち落すポテンシャルのある作品は無いと言っていい(ただし、『The Disaster Artist』のみ、ジェームズ・フランコのセクハラ騒動の影響を受ける可能性があり、若干の不安が残る)。
では、残り1枠はどうなるだろうか。実は、今回の予想で何よりも難しいのはこの部門のこの1枠の予想である。恐らく『LOGAN ローガン』『ブレードランナー2049』『ワンダーウーマン』『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』『ワンダーストラック』『Wonder』の中から指名されるはずだ。組合賞では、『LOGAN ローガン』が滑り込んだ。ただアメコミ映画・娯楽大作をこの部門で認めたくない会員は、『The Beguiled/ビガイルド』『ワンダーストラック』『Wonder』などに票を投じるだろう。非常に判断が難しい。ただ、勢いという面でも、組合賞で指名されたという面でも『LOGAN ローガン』を予想するのが妥当な気がする。
ウィークイヤーゆえ、予想もしなかったところから滑り込んで来る可能性もあるだろう。英国アカデミー賞で指名された『Film Stars Don’t Die in Liverpool』や『Stronger』の名前も一応挙げておいてもいいかもしれない。ちなみに『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』がいくつかの批評家賞で認められていたが、こちらはオスカーのテイストからは外れている気がするため、候補入りは難しいのではないか。
■衣装デザイン賞
【予想】
ファントム・スレッド
シェイプ・オブ・ウォーター
美女と野獣
ブレードランナー2049
ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男
衣装デザイン賞を設けていない批評家賞が多いため、前哨戦の結果から予想するのにも限界がある。ただ、それでも『ファントム・スレッド』『美女と野獣』『シェイプ・オブ・ウォーター』は候補入りまでは問題ないだろう。おそらく受賞もこの中から出るはず。このうち、最も強かったのは『ファントム・スレッド』だ。手がけたのは「アーティスト」で受賞経験があるマーク・ブリッジス。同じくオスカー受賞経験のあるジャクリーヌ・デュランが手がけた『美女と野獣』は衣装が評価されやすいことは明白であるし、『シェイプ・オブ・ウォーター』も作品パワーを考えれば大丈夫だろう。
前述の3作品のあとを追っていたのは勢いの順に『ブレードランナー2049』『ワンダーウーマン』『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』『オリエント急行殺人事件』『I,Tonya』だ。おそらく残り2枠はこの5作品の中から出るはず。上位2作品をそのまま予想したいところだが、そう上手くいくだろうか。『ワンダーウーマン』に若干の引っ掛かりを覚えるからだ。注目すべきは『ウィンストン・チャーチル』の衣装を手がけたのは『美女と野獣』のジャクリーヌ・デュランだ。総合評価で票を投じる会員が多いと見る。組合賞で勢いが増した『I,Tonya』の可能性も十分にあるだろう。技術部門では意外なところから候補者が出ることもしばしば。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』『ダンケルク』『マイティ・ソー バトルロイヤル』の名前も挙げておこう。
「君の名前で僕を呼んで」から「今晩のおかず」までを手広くカバーする巨大掲示板群
第90回アカデミー賞ノミネート最終予想 メイキャップ&ヘアスタイリング賞・編集賞・外国語映画賞
■メイキャップ&ヘアスタイリング賞
【予想】
ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男
I,Tonya
Wonder
最初に断っておくと、この部門はすでに発表された最終選考進出の7作品から、3作品がノミネートされる。メイキャップの効果が絶大な『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』の候補落ちはまずないのではないか。あとの2枠は前哨戦の結果から考えて、『Wonder』『I,Tonya』と予想するのが妥当だろう。ただこの部門ばかりは予想しづらいのが現状だ。
■編集賞
【予想】
ダンケルク
ベイビー・ドライバー
シェイプ・オブ・ウォーター
スリー・ビルボード
ブレードランナー2049
実はあまり知られていないことなのだけれど、この編集賞こそが作品賞を占う上では最重要の部門であるのだ。前哨戦結果のみを考慮して作品賞予想をしがちな人が多いのだが、実はノミネート部門もそれに並んでキーポイントとなるのだ。
というわけで、作品賞の頂点に立つ可能性のある作品がこの部門を落とすわけにはいかない。現時点で作品賞に輝く可能性のある作品は3作品に絞られてきている。『シェイプ・オブ・ウォーター』『スリー・ビルボード』『レディ・バード』がその作品だ。前哨戦結果を見る限り、『シェイプ・オブ・ウォーター』の候補入りは堅いだろう。『スリー・ビルボード』は、ここで落ちると作品賞に輝く可能性がぐんと下がってしまうことを考えると、予想に入れるのが妥当だろうか。問題は『レディ・バード』だ。組合賞では候補入りしているものの、そもそも組合賞はドラマ部門とコメディ部門に分かれているため、候補入りしたからといってさほど参考にはならないのが現状だ。ただ批評家賞の結果を見る限り、この部門で認められるのは容易ではないのではないか(『レディ・バード』はこの部門を落としても、おそらく「セクハラ問題」「女性差別問題」の後押しをかなり受けると思われる)。
賞レースウォッチャーが今回の編集賞レースでいちばん驚いたのは『ベイビー・ドライバー』の見事な快走ではないだろうか。ほぼ全ての批評家賞で候補入りを果たし、重要批評家賞を次々と制覇、このままオスカーを掻っ攫ってしまいそうな勢いだ。ただ、『ダンケルク』もそれに食らいついた。編集賞レースは早くもこの2作品の一騎打ちの様相を呈している。当然、この2作品は候補までは安泰だろう。(ちなみに、『ダンケルク』の編集者リー・スミスは、主にクリストファー・ノーラン監督とのタッグで知られ、オスカー候補経験を2度持つヴェテランエディターである。)
そのほか、『ブレードランナー2049』『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』『ゲット・アウト』が有力コンテンダーだ。ここに『I,Tonya』『モリーズ・ゲーム』を加えてもいいかもしれない。編集賞はアクション映画などからも積極的に選出されており、作品賞や監督賞などに比べて比較的間口は広いと言える。
『君の名前で僕を呼んで』『The Florida Project』『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』などが逆転の目を残しているか。ただ、これらの作品がそれほどのパワーを備えているとは考え難い。勝ち上がることができたら、大金星といえよう。
■外国語映画賞
【予想】
ナチュラルウーマン(チリ)
ザ・スクエア 思いやりの聖域(スウェーデン)
ラブレス(ロシア)
女は二度決断する(ドイツ)
Foxtrot(イスラエル)
この部門は前哨戦で健闘していた作品も最終選考から漏れてしまったり、波乱の多い部門の1つだ。ただ、今年度は順当に最終選考に進んだ作品ばかり。尤も、前哨戦を牽引した『BPM ビート・パー・ミニット』や『最初に父が殺された』の落選を嘆く賞レースウォッチャーも多いことだろう。
注目は、この部門にも「セクハラ問題」「女性差別問題」が影響してくるか、だ。この部門に投票できる会員は条件付きで制限されているため、ノミネートの段階ではさほど影響しない気がするも、どうだろうか。もしその後押しを受けるのなら、女性が主人公である『ナチュラルウーマン』(チリ)、『女は二度決断する』(ドイツ)は強いはずだ。とりわけ、後者は戦う女性を描いているという面で、かなりの支持を得らえるはず。ただ、気になるのがその作品評価だ。実は、前哨戦での大健闘に相反して、評価は絶賛一色には染まらなかった。溢れる暴力描写の割に、不足気味のサスペンス。そして何よりエンディングがその賛否を真っ二つに分けている大きな要因となっているよう。否定派は決して少なくない。これがどう影響するだろうか。GGAとBFCAはどちらも『女は二度決断する』に譲ったものの、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(スウェーデン)も大健闘であった。
君の名前で僕を呼んで 関連ツイート
3月ブラックパンサー
4月インフィニティウォー
君の名前で僕を呼んで
6月デッドプール2
ジュラシックパーク
7月アントマン2
ミッションインポッシブル6
10月ヴェノム
11…