はじめて深川麻衣を使う人が知っておきたい6つのルール

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物事には始まりと終わりがある。

 

何かのきっかけで始まり、何かのきっかけで終わったり、自然消滅したり。

 

始まりがあれば終わりはある。

 

始まれば、それは終わりの合図。

 

 

人にも同じように、始まりと終わりがある。

 

生と死。

 

生まれた瞬間、人生が始まり、それと同時に死という終わりの運命が刻まれる。

 

 

始まりと終わりはいつも隣り合わせ。

 

始まりは終わり。

 

 

そして、終わりは…始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が青かった。

 

雲一つない青空が銀色のフレームに縁取られて、それは景色ではなくまるで絵画。

 

何度も見たことがある。この絵画を、この場所で。

 

 

思い出す。

 

まだ私の体が小さかった頃、ベットに立ちやっと見えた絵画。

 

まだ慣れていない消毒の匂いと共に危ないからと伸ばされた手。

 

不満な私を見て、困ったように眉を下げる白い服を着たお姉さん。

 

 

あぁ、懐かしい。

 

誰もが持つ色あせ日焼けした写真。

 

頭の引き出しから引き出しては懐かしさに顔を綻ばせるのが一般的だが、そうではなく無意識に顔が引き攣るのは、幸せな思い出ではないから。

 

 

「飛鳥ちゃ～ん、検診です」

 

 

写真と同じ…いや、ほんの少し大人びた顔が開けられたドアから覗かせる。

 

幼い頃から私を見てくれている看護師の深川麻衣さん。通称まいまい。

 

柔らかな雰囲気と可愛らしい笑顔。その優しさから新人時代から圧倒的な人気な看護師さん。

 

しかし注射などではそのおっとりな性格とは真逆に容赦なく針を刺すため、一部では「笑顔の鬼」とも呼ばれていたりする。

 

 

「あ、まいまい」

 

 

「どう～調子は」

 

 

「いつも通り、元気だよ」

 

 

白いベットの上が私の世界。

 

たくさんの管が私に繋がれ、モニターが私を24時間監視している状態の私だけど、至って元気。

 

体も、心も元気。運動だって普通に出来るし、落ち込んでなんかまったくない。

 

悪いのはすべて…

 

 

「ほんと？心電図、結構乱れてるけど。めまいとかない？呼吸は？」

 

 

「大丈夫。耐えられないほどじゃないし、呼吸も息切れ程度だから」

 

 

「そう…。少しでも変だと感じたらすぐにナースコール押してね」

 

 

「は～い」

 

 

胸ポケットから出されたピンク色のペンがカルテを走る。

 

首を伸ばし覗き込んでみれば、沢山の文字が書かれていて思わず目で追う。

 

まるで外国語の呪文のような言葉たちを解読することは出来ず、なにも得ることは出来なかったけど。

 

細々と書き込まれたカルテで一番目を引き、私が一番目を引く文字。

 

私の体の自由を奪う病気の名前。

 

 

人間の体のパーツの中で一番重要と言っても過言ではないパーツ。

 

それが心臓。

 

 

私は生まれつき心臓が弱かったらしい。生まれてすぐお母さんに抱いてもらうことなく、挿管されチューブで繋がれた状態になった。

 

元々不完全な状態だったらしく、記憶は無いが手術を行いなんとか日常生活を送れるまでには回復した…らしい。

 

物心つく頃から運動は制限されていたし、よく入院だってしていたおかげで回復したという自覚は無い。

 

実際完全回復はしていないわけだし。

 

そして中学2年生になった途端、新たな病気が私の心臓を襲った。

 

主治医の先生に話しは聞かされたけど私自身あまり理解はしていない。

 

左心室が拡張するとかなんとか…

 

主な症状は呼吸困難や疲労感。不整脈など。

 

原因はまだわかってはおらず、薬はあるものの慢性化しやすいため心移植を必要とする場合が多い。

 

私も心移植を受ける一人。今はドナーを探している。まぁ、そうそう見つかるものではないのだけれど。

 

 

いつドナーが見つかるのかな。

 

見つかっても私の体に合うのかな。

 

それ以前に、私の体はそれまで生きていることができるのかな。

 

 

症状によっては急死もありえる私の体。

 

細井道、少しでも風が吹けばバランスを崩し奈落の底へ落ちてしまう世界で生きる私。

 

生と死の間を綱渡りしているような毎日。

 

死への不安はおろか、そこまでして生きる意味も見つけていない私は、精神的に参っているなんてことはない。

 

ただ、不自由な体にはうんざりしていた。

 

 

「今日は騒がしいね」

 

 

規則的な機械音が響く病室内。閉じられたドアの向こう側から聞こえてくるガチャガチャという音に私は聞いた。

 

わりと大きめの病院、騒がしいなんていつものことだけど、隣の病室っぽかったから。

 

ほら、だって、空室なのに音が聞こえたりなんかしたら…怖いじゃん。

 

隣の部屋のことは知っておきたいの。引っ越しの時、隣人がどんな人か気になるように。

 

 

「隣の病室にまた新しい患者さんが来たの。詳しくは言えないけどね」

 

 

「…そっか」

 

 

「ふふ、気になる？」

 

 

「いや、別に…」

 

 

確かにどんな人かは気になるけど、どうせ顔を合わせることなんてないだろうし。

 

私はもう一人で出歩けないし、散歩だって看護師さんが許した時だけ、車椅子に乗せられ病院内を徘徊するだけ。

 

隣のの人に会うことはおろか、まず人と会うことだって少ない。

 

 

それに、病院で友達を作ったって…

 

みんな私の前から消えていく。

 

私だっていつかはみんなの前から…

 

 

何度も経験してきた。もう、友達なんて作らない。

 

今回入院する時に決めた。

 

もう入院して一年経つけど、友達は一人もいない。

 

いなくていい。寂しくなんか…ない。

 

 

目の前で始まりと終わりを見届ける悲しみなんて、もう…味わいたくない。