犬ヶ島 楽しすぎて狂っちまいそうだ!
暴れ猿
2018/03/10 12:15
震災犠牲者への祈り込めたコマ撮りアニメ「松が枝(え)を結び」の村田朋泰監督
映画深層
2018.3.10 02:00
東日本大震災から7年。その間、数多くの映像作品で悲しみと再生の物語がつづられてきたが、アニメーション作家の村田朋泰(むらた・ともやす)監督(43)が描く世界はちょっと趣を異にする。ミニチュアセットや粘土などを用いたストップモーション(コマ撮り)・アニメーションで大地の震えや津波の脅威を再現し、祈りや鎮魂の思いを伝える。「人の手で動かすコマ撮りならではのぬくもりは、特に自然現象を表現するときに顕著に出ると思う」と語る村田監督の作品とは-。
大きなスクリーンに期待
ストップモーション・アニメーションとは、人形などを1コマ1コマ少しずつ動かして撮影し、これを連続して映写することであたかも動いているように見せる技法のことだ。最近ではスイス・フランス合作「ぼくの名前はズッキーニ」が2月に公開されて評判を呼んだほか、2月に開かれたベルリン国際映画祭では、「犬ヶ島」のウェス・アンダーソン監督が監督賞を受賞するなど、何かと話題となっている。
日本でもテレビCMやNHKの「みんなのうた」などでよく目にするが、村田監督も、Mr.Childrenのミュージックビデオなど商業的な仕事をこなす一方で、作家性あふれる作品をこつこつと作り続けてきた。美術館やギャラリーなどで披露されてきたが、3月17日からは、代表作をまとめて映画館で公開する初の企画「村田朋泰特集 夢の記憶装置」がスタートする。
「前々から構想していたことが少しずつ形になってきて、少しまとまって見せる機会があればと思っていた」と語る村田監督は「ちゃんとした音響と大きなスクリーンは体験してみたかった。地方でも上映してくれる映画館があるようなので、僕もうかがいたいと思っています」と、公開を心待ちにしている。
虚実皮膜のぬくもり感
7作品が用意されているが、中でも特筆すべきは、昨年完成した最新作「松が枝(え)を結び」だ。10年をかけて5部作の制作を構想している「生と死にまつわる記憶の旅」シリーズの3作目で、震災で引き裂かれた双子の姉妹が、現在と過去を行き来しながら記憶を取り戻していく。村田監督の他の作品同様、せりふは一切なく、生死を分けた姉妹の運命と太古から変わらない自然の営為が、ストップモーション・アニメだからこその深みのある動きで描かれる。津波が家々を飲み込んでいく場面も、粘土を駆使して巧みに表現していて驚かされる。
「実際の津波の映像はあまりにも直接的で、つらい記憶を呼び起こされる人もたくさんいるでしょう。粘土で表現することさえ思うところはあったが、でもそこは描くべきだなと思った。ストップモーション・アニメに変換することによって、実際の雨や風とは違う印象で受け取られるはず」
そう言って村田監督が挙げたのが、近松門左衛門(1653~1725年)の「虚実皮膜論」だ。江戸時代の浄瑠璃作者だった近松は、虚(嘘)と実(本当)の境目にこそ芸の面白みがあると指摘、文楽における人形遣いの神髄を表す言葉として今に伝わっている。
文楽は大好きだったという村田監督は、リアリティーと嘘の表現の間をうまく演出できたらいいなと思いながら、ストップモーション・アニメに取り組んでいるという。
「物や人形がすべてリアルに動くというのが最終目標ではなく、その境目がどこなのかを探っているという感じがします。1コマずつ動かして時間を費やすことで、ぬくもりみたいなものは出てくると思う。ちょっと服がへこんだとか、かしているうちに起きる不具合みたいなものは、味として理解しています」
個人作業が個性を生む
母親が油絵の画家という村田監督は、3~4歳から絵画教室に通い、美術の道を目指していた。一方で高校のころは、アンドレイ・タルコフスキー(1932~86年)やビクトル・エリセ(77)といったアート系の映画作家に憧れを抱く。結局、東京芸術大学のデザイン科に進むが、創作面で最も影響を受けたのは、作家の吉村昭(1927~2006年)だった。
「地元が同じ東京・日暮里というのもあるが、彼の考え方、生き方に大きく影響を受けた。感動させるための表現などは一切することなく、そこで行われていることを淡々と描写する。エッセーも1人で居酒屋に行ったりして、その事実をいくつも積み重ねる。会ったことはないが、勝手に崇拝していて、影響を受けたものを形にするときに最もしっくりきたのが、このストップモーション・アニメの表現でした」
アニメというと、大勢で役割を分担させて制作するイメージがあるが、村田監督の場合は基本的に1人で行う。ミニチュアのセッティングはスタッフに手伝ってもらうこともあるが、照明、撮影、さらには人形を動かすのも個人作業だ。
「全然大変ではなくて、趣味みたいなものだから」と話す村田監督は、撮影する時間が一番の醍醐(だいご)味であり、そこに自分の個性が出てくると明言する。
「体が動くうちは1人でやっていった方がいいかなという気がしています」とほほ笑んだ。
(文化部 藤井克郎)
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「村田朋泰特集 夢の記憶装置」は、「家族デッキ(第1話、第2話)」「朱の路」「白の路」「森のレシオ(こうかんトリ)」「木(こ)ノ花ノ咲クヤ森」「天地(あめつち)」「松が枝(え)を結び」を上映。3月17日からの東京・渋谷シアター・イメージフォーラムを皮切りに、横浜・シネマ・ジャック&ベティ、名古屋シネマテーク、大阪・シネ・リーブル梅田、神戸・元町映画館などで順次公開される。
村田朋泰 むらた・ともやす。1974年、東京生まれ。東京芸術大学大学院デザイン専攻を修了後、ストップモーション・アニメーションの制作会社「TMC」設立。「睡蓮(すいれん)の人」「朱の路」といったアート作品のほか、Mr.Children「HERO」のミュージックビデオ、Eテレ「プチプチ・アニメ」で放送中の「森のレシオ」など、幅広く手がける。「生と死にまつわる記憶の旅」シリーズは、「木ノ花ノ咲クヤ森」「天地」「松が枝を結び」の3作品が完成している。
http://www.sankei.com/entertainments/news/180310/ent1803100001-n1.html
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