シェイプ・オブ・ウォーターが激しく面白すぎる件

青や緑青色を基調とし、

レトロで可愛い雰囲気を持つ予告編を見て以来、

劇場公開を首を長くして待っていました。

ギレルモ・デル・トロ監督の大人のファンタジー。

甘いメルヘン、痛々しいほどの暴力、

ハラハラドキドキのサスペンス、クスクス笑っちゃうユーモア。

エログロを含む、美しいファンタジー。

60年代を醸し出すセンスの良い美術や音楽。

映画へ愛も感じられ、とても気に入りました。

ストーリーはシンプル。

1962年、冷戦下のアメリカ。

政府の極秘研究所で掃除婦として働く、口のきけないイライザと、

アマゾンで捕獲された半魚人とのラブストーリー。

研究所で虐待され、生体解剖されようとしている半魚人を、

イライザが助け出そうとするお話。

細かいことは気にせず、まずは純粋な気持ちで“夢の世界”を楽しむのがオススメ。

夢のお話は、通常突っ込みどころが、沢山あるものですからね。　

キャスティングが絶妙。

サリー・ホーキンス、オクタヴィア・スペンサー、リチャード・ジェンキンス、

マイケル・シャノン、ダグ・ジョーンズ。良い役者さん揃いです。

サリー・ホーキンスが美人過ぎないのが、本当に良い。

ヌードになっても、エロ過ぎない、イヤミのないカラダ。

夢の世界にマッチします。

イライザは、いくつになっても夢見る乙女という感じで、女子力が高いんですよ。

夜勤で、お掃除の仕事なのに、

毎日出勤前にお風呂に入り、靴を磨き、お弁当も作り、ちゃんとした服装で出かけます。

1人で映画スターのマネをして踊ってみたりする、カワイイところもあるんです。

それでいて、背筋がピンとしていて、仕事もテキパキ、イザという時の毅然とした態度。

こういう恋愛市場で埋もれがちな“しっかり女子”の恋愛話は、

見ているほうも気になります。

半魚人を助けるため、情報収集をしている時のイライザは、

まるで土曜サスペンスの「家政婦は見た」状態で、笑っちゃいました。

監督は無類の怪獣好き。

半魚人のデザインに２年掛かったそうです。

半魚人と人間との恋のハッピーエンドを６歳のときから夢見てきました。

本人も奇妙なストーリーという認識はあるようで、

これが、美しくて、魅力的で、詩的なバランスになるよう、探りながら作ってきたようです。

監督の世界観が強いため、嫌いな人もいるかもしれませんが、

私は、監督の思いのこもった凝った映像とストーリーに大満足です。

この映画、エンタメとして、とても楽しいし、役者の演技も素晴らしいので、
それだけで十分なんですが、

政治的メッセージを読み取る人が、結構いるので、考えてみました。

監督によれば、このお話は、現在も起こっていることだと言うんです。

直接的にはアメリカのトランプ政権のこと。

この映画の登場人物は、ほとんどがマイノリティー。

６０年代のアメリカで、社会的に声を失っている人たち。

障碍者、黒人、ゲイ、スパイ。

彼らが団結して、政府側の悪人と戦うという構図です。

しかし監督は、悪人をただ悪人と規定するような単純な描き方はしていません。

一見、意味がなさそうに見える、各キャラクターの私生活を見せていくことで、

人間の多面性を見せ、普遍性を担保します。

一部、アメリカ的成功への皮肉と取れるところもあります。

友情、愛情を描く一方、それに対抗する恐怖も。

未知の物への恐れ、これ自体は自己防衛のために備えられた自然のものでしょう。

でも、私たちは、日々知らないもの、分からないものを理解しようとし、

それによって成長し、社会が発展していくという経験をしています。

それが今、他人への排除という形に向かう傾向にあることは否めません。

それは、人間の成長、社会の発展を阻害することや放棄することを意味しているのかも知れません。

監督は、メキシコ出身なので、アメリカに対し、特に強く思うところがあるのでしょう。

私自身、海外で、言葉や声を失った者として生活しているので、

見かけでなく、言葉さえも超えたテーマに、多くの人が目が向けることは、

たとえ一瞬であってもうれしいです。

愛という言葉で語るのは陳腐でイヤなのですが、

やっぱり、愛の力が、恐怖を克服して、一歩前進む源なのかもしれないなと思いました。

まあ、難しいこと抜きにしても、

美しくて、夢があって、応援したくなる映画でした。

オススメです。